Hope – 終末期医療における希望とは

Hope – 終末期医療における希望とは

今日はホスピスへの移行をせねばならない患者さんが3人が外来で診療となりぐったり。。。。とはいえ、午前中の2名の患者さんは事前にしっかりと電話で話したり、毎週のように外来での診療中のコミュニケーションの成果もあり比較的スムーズに治療中止を受け入れ、患者さんも家族も納得した上で、良い形でのホスピスチームへの引き継ぎとなった。忙しい一日のクリニックの最後が、とある患者さん(Aさん)とthe goal of care & ホスピスに移行するための話し合いが大変だった。

Aさんは母国で膵臓癌を切除後、アメリカに戻り、補助化学療法の途中で転移がわかり、標準治療の化学療法が効かず、局所療法をするために母国へ一時帰国、その間にさらに進行し、念願の治験に参加したもの病気が進行し、胃に穿孔おこしため入院し、全身状態も悪化。患者さんとその家族が強く希望する遺伝子変異をターゲットした未認可の次の治療はお勧めしかねる状況であったため、ホスピスをお勧めするという流れであったが。

患者さんは、どうしてもFDA未認可の治療を試したいの一点張りで、主治医がどんなに病状や予後を説明しても話は堂々巡り。次第に患者さんもその家族も自分をなぜ見捨てるのだと怒り出す。治療を諦めたくないという主張は譲らないため1時間以上話しても膠着状態でどうなることやらと思ったところ、同席していた緩和治療の医師がうまく話し合いの方向性を変えていった。

激昂している患者さんの夫に対して、愛する妻の病状が急激に悪化していくことを非常に心配しているのはとても自然なことである。適切な治療を全部したいという気持ちも当然である。ただ、医学的に判断して残念ながらこれ以上の治療のオプションは主治医の話からするとなさそうである。ホスピスケアに移行することは決してあなた達から希望を取り上げることではない、ホスピスに移行しても希望を持ち続けていけば良いし、そこで奇跡が起こることがあればそれは素晴らしいことだと思う、僕たちも奇跡を祈りたい。ただ、現在の状態では、患者さんの症状マネージメントこそが彼女にとっての最適な何よりの治療であるということを、とても穏やかなトーンで説明していった。結果、ホスピスの人たちに会ってみて、翌週に結論をということになった。先の見えない話し合いになる中で、緩和ケアの医師の鮮やかなコミニュケーションスキルに圧倒された。

転移癌の治療においての希望というのはなかなか難しい。ステージIVの患者さんへの告知の際に、(一部の切除可能な治癒を見込めるガンの場合を除いて)必ず治療のゴールは病状をコントロールするもので決して治癒を目指すものではないと話すのだが。化学療法で腫瘍が縮小することがあれば皆、どこかで奇跡があるのでは、もう少し時間があるのではと希望を持つ。希望は治療を続ける上で必要なものだが、時に少し現実的ではない期待を持ってしまうことが、時に終末期においてホスピスケアへの移行だったり、治療中止を受け入れられない場面に遭遇することがこのところよくある。と言ったわけで、日々の診療の中で患者さんが持つ期待や希望が私を苦しくさせる。もちろん、治療への反応が良く、病状のコントロール期間が長い人もいるので一概に何が現実的なのかを判断するのは難しい。

今日の状況下で、希望を持ち続ければ良いし、奇跡を信じることをやめる必要はないと言い切った緩和医の寄り添いに感銘を受けた。昔日本で看護師をしていた時に、とある緩和ケアにおける著名な人が、緩和ケアとは患者さんを丸ごと受け止めるケアであるといった趣旨の公演を聞いたが、改めてその本質を見たように思う。ついつい、病状が悪化していることを伝える、病状を理解してもらうこと、そしてその上でホスピスケアへの移行を納得してもらうことが話し合いの目的になっていたが。患者さんの価値観をありのままに受け止め、その気持ちに寄り添うことが、医学的に妥当で患者さんとその家族が納得できるゴール・プランを合意形成するのに必要だと思い知らされた。

今日会った緩和ケア医のようなコミュニケーションスキルを自分も身に付けたいと思い、うやむやにしていた終末期ケアの勉強会のアプリケーションに取り組まねばとモチベーションアップして長いクリニックが終わった。

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